【2022 冬】今回はドレスデンから始める旅

GWに久し振りにウィーンを訪ねてまだ半年しか経っていないのに、また行ってきた。マイレッジの有効期限の切れないうちにとか、勤続40年の報奨休暇の消化とか、いろいろ理由は付けてみるけれど、要は我慢出来ずにということ。

とはいえ、今回は、日本に戻ったその日にプライベートに大きな取り込みごとが発生し、心身共に忙殺され、ブログどころではなかった。その渦中では「こんなことがあったのに、ブログでもないな」とも思ったが、少し落ち着いた今は「やはり記録は残しておこう」と思い直した。というわけで、少し日は経ちましたが、ボチボチ書いていきます。日付は、実際の日程に沿いバックデートします。

今回の旅も、最初はいつもの様にウィーンの一点張りの予定だったけれど、頭の2日くらいにあまりパッとしたイベントがなかったので、先に他も回ってみようかと、思いついた場所がドレスデン。

この街には、1988年の暮れに一度訪れたことがある。ベルリンの壁が崩れる丁度1年前のまだ東ドイツだったころ、観光会社を経営する先輩の企画した当時の東ドイツを回るツアーに参加して、ドレスデンにも1泊してマイスタージンガーを観ている。

ということで、34年振りのドレスデン再訪だったけれど、運悪く旅の始まりにロストバゲージに会う。ウィーン往復(最初予定の直行便からフランクフルト経由の乗継便に変更)のフライトスケジュールに、不細工にドレスデン往復(これもミュンヘンの乗継便)を付け足したものだから、往路は羽田ーフランクフルトーウィーンーミュンヘンードレスデンを20時間以上掛けて飛ぶことに。3ヶ所の乗継時間は、それぞれ1時間余りしかなかったので、あぶないかなとは思っていたが、最後のミュンヘンの乗継時間が30分程度になってしまい、ここで荷物が追いつかなかった。ロストバゲージなんて30年振りくらいじゃないだろうか?

さすがに昔と違うのは、バゲージが間に合わなかったことは、すぐにシステムに載り、ドレスデン空港に降りスマホを開けたら、もう「ミュンヘン空港で間に合わなかった」という連絡がメールで入っていた。これは全部の荷物が出るのを待ってから気付かされるのに比べたら、随分と気分が楽だ。

結局、私自身は昼過ぎにホテルに着いたが、荷物はその夜遅くにホテルに送られて来た。その晩には、オペラ観劇があったので、着替えは間に合わず、セーターにチノパンのラフな格好で観ることになった。

◇ドレスデン空港:ドレスデンは、人口約50万人のドイツの中堅都市。11月末のクリスマス前に人の移動が多くなっているかと思ったが、意外に閑散としていた。

2022 春:行きはよいよい、帰りは...

今回の旅行、ウィーンへの往路は羽田のチェックイン時にワクチン接種証明アプリで3回接種の記録を確認されだけで、あとは経由地のロンドンでもウィーンでも何も見せずに済んで拍子抜けした。けれど日本への帰り道はなかなかに大変だった。

まず日本への出発便搭乗前72時間以内のPCR検査での陰性証明書が必要。これについては陽性が出はしまいかと、結構ドキドキしたものの、検査手続き自体は殆ど面倒はなかった。私はStaatsoperからほど近いケルントナー通りに面したFastTestという施設に行った。予め日本から予約をしておいたが、混んでおらずスムーズだった。厚労省のインストラクションでは「任意の証明書ではダメ、厚労省指定の書式に記入して責任者の署名/スタンプ押印が必要」ということで、引き受けて貰えるかどうか不安に思っていたが「あぁ、これですね」という感じで問題無かった。テストは口腔と鼻奥の2か所を綿棒でぬぐって検体採取。その後2時間も経たずにEメールに証明書画像が添付されて連絡が来た。ということで、きわめてスムースに済んだけれど89ユーロという料金は少し...ね。

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◇PCR検査施設のFasTest(ウィーン):ここまでは比較的順調

そのあと、航空会社から案内が来て、MySOSというスマホアプリをダウンロードして、そのアプリで日本到着の16時間前までに以下の作業をする様にとの指示があった。
①質問表回答
②誓約書承認
③ワクチン接種証明書(3回)アップロード
④72時間前PCR検査証明書アップロード
以上は30分も掛からずに終わり、数時間でアプリに審査結果が「合格」との連絡あり。合格だと到着空港(私の場合は羽田)で「ファスト・トラック」が適用されるとのこと。

それでようやく帰路に着けるのだったが、問題はそれからだった。

帰りもロンドン経由だったが、日本を出る少し前にウィーン→ロンドンのフライトがキャンセルになり、替りの便ではロンドンで5時間もの乗継時間が掛かることになると判っていた。実際にはロンドンから羽田へのフライトも1時間近く出発が遅れて、結局ロンドンでは6時間足止め。日本からロンドンへの往路はロシア上空を回避して北極回りだったが、復路は同じくロシア上空を今度は南側に迂回して中央アジアを通過して日本へ向かう。ようやく5月6日の18時頃に羽田に到着。この時点でウィーンのホテルを出てから25時間掛かっていた。

それでも「あとはファスト・トラックだ」と希望を持ったが、さにあらず。まず検疫エリアが混雑しているということで機内で待機を命じられる。飛行機を降りてからは延々と並ばされ、2か所のチェックポイントでスマホアプリの設定確認・内容確認などがあり、ようやくPCR検査(唾液採取)にたどり着く。その結果待ちに1時間近く掛かり、その後にようやく通常の入国審査~荷物ピックアップ~税関を経て到着ロビーに出た。この時には20時20分になっていて、着陸してから2時間20分掛かっていた。

もはや、電車を乗り継いで帰宅する元気が出ずタクシーで帰った。自宅について21時。結局、ウィーンのホテルを出てからほぼ30時間掛かったことになる。本当にヘトヘトになった。

今月中にも水際対策を緩めて海外からの観光客を受け入れるだろう、とのことなので、今の様な検疫措置も簡素化されると思うが、果たしてどうなることやら。

2022 春:客の入り具合

ウィーン・フィル博覧強記の知人から「このご時世でそちらのお客さんの入り具合はどうですか?」という質問があった。そう言われるまで余り気にしていなかったが、やはりコロナ禍前とは少し違うのかも知れない。私が比較できるのは前回2017年のGWだが、あの時はどの公演も満席だったと思う。

まず結果からいうと、今回Musikvereinの2公演(ウィーン・ジュネスオケとティーレマン/ウィーン・フィル)はおそらく満席。Staatsoperの2公演(「トリスタンとイゾルデ」と「ラインの黄金」)とVolksoperの1公演(「こうもり」)も8割は行っていたと思う。4月の半ばにマスクなどの制限が解除されたばかりで(但し公共交通機関などを除く)、海外からの観光客もまだ戻っていない状況では健闘していた、というべきかも知れない。但し、今回私が観た公演も皆人気の演目だと思うが、私がこれらのチケットを購入したのは2月10日前後。どれもネットで自由に選べたが、コロナ禍前はそんな時期に欲しい席を入手するのはおそらく無理だったろう。

今日(5月7日)の時点で、Staatsoperのサイトで来週(5月9日)の公演の残席状況を見てみると、「フィガロの結婚」で400席くらい、「ボリス・ゴドゥノフ」はロシア事情もあってか700席くらい、バレエでも同じく700席くらい、それぞれ残っている。そんな訳で、今の時期はまだ地元の皆さんが中心だと思うが、お年寄りの姿が以前より目立っていたように思う。観光客の少なくなった分を応援しようということかも知れないし、あるいは目障りな観光客が減ったから出て来易くなったのかも、というのは穿ち過ぎか。


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◇「ラインの黄金」の客の入り具合

 

2022 春:Spargel! Spargel!! Spargel!!!

今や春から初夏にかけてのこの時期に、ウィーンにやって来る理由のひとつは、明らかにホワイトアスパラガス(ドイツ語でWeißer Spargel)が食べたいがためだ。
ひとり旅なので、朝食以外の食事はもっぱらカフェだけれど、ウィーンの老舗カフェは料理も(勿論ケーキも)おいしいところが多い。下の写真は今回食べたホワイトアスパラガスの数々。

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◇茹でホワイトアスパラガス
一番定番の食べ方。茹でたアスパラガスにポテトを添えて。ホランデーズ・ソースで食べる。ハムの付くパターンも多い。写真は、Staatsoperの後ろにあるCafe Mozartのもの。午前零時まで開いているので、オペラの後でも入れる。公演の前に夕食を摂ると眠くなってしまうので、公演後にここで食事をすることが多い。他の日にホワイトアスパラガスのクリームスープを食べたが、スライスしたアスパラガスも入っていて、そちらもなかなかに美味。

 

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◇ホワイトアスパラガスのフライ
こちらもCafe Mozartの一皿。ありがちな料理だが今回初めて食べた。タルタルソースで食べる。やはりビールにはこちらの方がよく合う。

 

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◇茹でアスパラガスのパン粉と茹で卵添え
4本のホワイトアスパラガスにグリーンアスパラガスが2本混じって彩りが良い。揚げたパン粉(細かい)と刻んだゆで卵のミックスがかけてあってアクセントになっている。付け合わせのパセリ・ポテトもきれい。特にソースは付け合わせておらず、しつこくない。よく茹で過ぎのことが多いけれど、ここは固めに茹でてあってうれしい。本当はビールより白ワインが合う感じ。

これを出しているのは、Cafe Pruckelという店。場所は、リンク通りを挟んでオーストリア応用美術館の真向かい、市立公園のはす向かいにある。創立は1904年だが窓が大きく取ってあって、他の老舗カフェに比べて随分と明るい感じ。朝食や昼食を摂るのに気持ちよさそう。敢えて「カフェ・レストラン」と名乗っていることもあり、この一皿もきれいでおいしい。他のメニューもぜひ試したい。今回初めて入ってみたけれど、すぐに気に入った。
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2022 春:ワーグナー「ラインの黄金」(Wiener Staatsoper)

今回の旅の最後は「ラインの黄金(ワーグナー)」。
2017年のGWに来た時も「指輪」のチクルスの最中で、「ラインの黄金」と「ワルキューレ」を観ている。今シーズンもこの日が皮切りでチクルスが始まる。

「トリスタンとイゾルデ」の新演出には辟易(というより憤慨)したが、今回は心配していなかった。演出のスヴェン-エリック・ベクトルフは私にはなじみの演出家で、2014年(ザルツブルク)に「ドン・ジョバンニ」、2015年(ザルツブルク)に「フィガロの結婚」、2017年にはウィーンで「ラインの黄金」「ワルキューレ」を観ていて、どれも面白かった。時代設定は変えていたり、抽象化しているが、過剰な演出はなく、歌と演奏に集中させてくれる。若干の変更はされていると思うが、今回の衣装と装置の基調は前回と同じだろう。見覚えがある。

とはいえ、今回の「ラインの黄金」は若干物足りなくも思った。この前の「トリスタンとイゾルデ」は演出こそ到底受け入れ難かったが、主演2人の迫力には圧倒された。今回のヴォータン役のJohn Lundgrenはスウェーデン人だがバイロイトやロイヤルオペラハウスでもワーグナー作品の常連、指揮のAxel Koberはライン・ドイツオペラ(デュッセルドルフ)の音楽監督という実力者だし、作品の違いもあるので、私の思い過ごしかも知れないが、カーテンコールも早めに切りあがった様に思う。

この作品の上演時間は2時間余りでワーグナーのオペラとしては短い方だと思うけれど、休憩がない。前回は気にならなかったが、近ごろ長く座っていると坐骨神経痛が出て右脚の腿裏が痛くなってくるのだが、それが出てしまった。情けない話。直さないと... 一度は「指輪」全4話を通しで見てみたいと思うのでね。

Wiener Staatsoper
Wednesday 4 May 2022, 19:00-21:30

DAS RHEINGOLD
Ricard Wagner

Conductor: Axel Kober
Director: Sven-Eric Bechtolf
Stage Design: Rolf Glittenberg
Costume Design: Marianne Glittenberg
Video: Friedrich Zorn

Wotan: John Lundgren
Loge: Daniel Behle
Fricka: Monika Bohinec
Freia: Regine Hangler
Erda: Noa Beinart
Alberich: Jochen Schmeckenbecher
Mime: Jörg Schneider
Fasolt: Artyom Wasnetsov
Fafner: Dmitry Belosselskiy
Donner: Erik Van Heyningen
Froh: Daniel Jenz
Woglinde: Joanna Kędzior
Wellgunde: Patricia Nolz
Flosshilde: Stephanie Maitland

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2022 春:ヨハン・シュトラウス「こうもり」(Wiener Volksoper)

実は、フォルクスオパーでの「こうもり」は2回目。前回は2010年9月。この時は、時差ボケに負けて第3幕で寝落ちてしてしまって、勿体無いことをした。今回は大丈夫。

主演級の3人はオーストリア生まれ。特にソプラノの2人はウィーン生まれなので、それだけで本場物に触れた様な気になるのだが、他にも地元出身や座付きのキャストは多くて、フォルクスオパーのオペレッタはいつも一座感があって楽しい。(とは言ってもドイツ語はよく分かっていないので、まさに「感じ」止まりの感想だが)話がそれるが、小間使いのアデーレ役のソプラノの立ち居振る舞いと声が、私には女優の濱田マリに似ている様に思えてしまって、ひとりニヤニヤしていた。プロフィール写真を見ると全く違うのだけれど。

有名な序曲が始まるとワクワクしてくる。観光客の欲かも知れないが、もっと拍子を揺らして、もう少しけれん味を加えて貰えたら、と思うのは下品かしら。

3幕モノのこの作品のハイライトはやはり第2幕のパーティー・シーンだろう。バレエ団の綺麗どころも出て来てとても華やかで良い。やはり座付きのバレエ団があるのは素晴らしい。

ところで第2幕から出て来る重要人物(パーティーのホスト役のオルロフスキー伯爵)がメゾソプラノの女性によって演じられていることに初めて気付いた。前回2010年のキャストを見返したらやっぱりそうだった。前回第2幕まではしっかり観たつもりだったけど、怪しいな。「ばらの騎士」や「フィガロの結婚」でも男役に女性歌手が充てられることはあるが(いわゆる「ズボン役」ずいぶんな言い方)、あちらは若い男であったり劇中で女装する羽目になったりするので「そういうことか」と腑に落ちるが、こちらは終始壮年の男性役なのでなぜにメゾソプラノの役なのか不思議だ。

その後の第3幕は場面が刑務所長の部屋と、セットは急に地味になり台詞の多い幕なので、素人的には余り面白くないのだが、実際には会場の受け・笑いは最も大きい。この幕の人気者は酔いどれ看守のフロシュ。ほとんど歌は歌わないが、「メリーウィドウ」にもいた「捨て台詞の森繁」みたいなコメディリリーフの役だ。いちばん笑いを取っている。2010年に観た時から今回のキャストはほとんど変わっているが、このフロシュ役の俳優は変わっていない。フォルクスオパーでもはまり役として認知されているんでしょうね。

やはり今回も楽しかった。再び言うけれど、ウィーンに来たら一夜はフォルクスオパーのオペレッタを観たいと思う。

Wiener Volksoper
Tuesday, 03 . May 2022 19:00 - 22:15

Die Fledermaus
Operetta by Johann Strauß

Dirigent: Guido Mancusi
Szenische Neueinstudierung: Heinz Zednik
Bühnenbild: Pantelis Dessyllas
Kostüme: Doris Engl
nach Originalentwürfen von: Evelyn Frank
Choreographie: Lili Clemente
Choreographie: Susanne Kirnbauer

Gabriel von Eisenstein: Daniel Schmutzhard
Rosalinde: Kristiane Kaiser
Adele: Juliette Khalil
Ida: Mila Schmidt
Dr. Falke: Günter Haumer
Prinz Orlofsky: Annely Peebo
Alfred: Mehrzad Montazeri
Iwan: Mamuka Nikolaishvili
Frank: Marco Di Sapia
Frosch: Gerhard Ernst
Dr. Blind: Gernot Kranner

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2022 春:来シーズンのプログラムブック

この旅の最初のところに「キャンセルする踏ん切りも決行する覚悟もあやふやなままに出て来た」と書いたけれど、それを裏書きするように周りの人間には、ほぼ誰にもこの旅行のことは何も言わなかった。唯一の例外はウィーン・フィルについては博覧強記の知人。

何か土産物の希望があるか尋ねたところ「来シーズンのシュターツオパーとフォルクスオパーのプログラムブックが良い」というので、探してみた。

来シーズンのスケジュールは、フォルクスオパーは少し前に発表になっていたが、シュターツオパーの発表は丁度この旅行中の4月30日だった。そしてシュターツオパーのスケジュール・ブックは翌日5月1日の「トリスタンとイゾルデ」の公演日には、もう館内に平積みになっていた。しかも無料。知人によれば「いつもは有料の筈ですが…」だそうだが。確かに無料版は日本で言えばフリーペーパーよりいくらかマシか?というような紙質で、有料と言われたら文句を言いたいところ。(この点、ムジークフェラインのスケジュールブックも無料で置いてあったが、こちらは厚さ1.5センチくらいのしっかりした紙質の豪華版!)

あとで国立劇場連盟のボックスオフィスで聞いたら「今年はシュターツオパー版は無料、フォルクスオパーは従来通り有料」とのこと。知人は「なぜ違うんですかね?」と訝しんでいたが、私の見立ては「コロナ後の集客回復を狙ってシュターツオパーは無料配布、フォルクスオパーは財源に不安ありで従来通り有料」といったところだが、Sさん、如何ですか?

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◇シュターツオパー版(無料):2〜3回めくったら、もう表紙がよれた

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◇フォルクスオパー版(有料 3.5ユーロ)