バンジョーは止まらない

アメリカに住んでいて出会った音楽というのは、実はそんなに無いんです。バイオリンの音楽を良く聞く様になったと か、志ん朝を真剣に聴き込んだとか(落語 ですけどね、この人の落語は音楽的要素が強い−この話しは後日)、そういうのって「アメリカ」とは本来あんまり関係無いし(まぁ個人的にはいろいろいわくはあるけれど)。そんな中で、唯一掛け値無しにアメリカに住んで居なければ出会う事はなかったろうというのが、この人、ベラ・フレック (Bela Fleck) というバンジョー弾き。彼が率いるバンドが、フレクトーンズ(Flecktones) 。名前の通り、バンジョーのベラ・フレックがリードを取るバンド。差し詰めカントリーかブルーグラスのバンドみたいだけど(ネーミングのセンスからしてね)、やってる音楽をカテゴライズすれば、一応「フュージョン」ということになるんでしょうね。元々ブルーグラスのバンジョー弾きとして出発しているけれ ど、今のスタイルは全く洗練されていて、一聴した限りではバンジョーとは判らないかも知れない。でも、スリーフィンガー独特のアルペジオはバンジョー以外の何者でもないんですけれど。

最初に聴いた(見た)のは、テレビ。チャンネルを変えているうちに、音楽番組があったので目を留めた訳です。マルサリス兄弟の兄貴の方(ブランフォード・ マルサリス、サックス吹き)と共演していたんだけど、サックスとの掛け合いでバンジョーを弾いているのをみて、ちょっとビックリ。エレキギターを弾いているのかと思ったら、音もちょっと違うし、胴の形も丸だし、「あっ、バンジョーだ!」とやっと気付いた。音も普通のバンジョーとは少し違うようだ。普通のバ ンジョーの乾いたアルペジオの音よりは大分ソフトな響き。テクニックとしては、相当な超絶技巧を駆使してるんだろうけど、サラッと弾いてのける。そもそも エレキギターみたいに泣いたり叫んだりせず、ひたすらアルペジオですからね、バンジョーは。聞いてるうちに、だんだん「オイオイ、何だコレは!」という感 じになって来る。

フレクトーンズの編成は、バンジョーの他がベース、サックス、ドラ ム。このドラムというのが、シンセサイザー・ドラムで形状はちょっと変わったエレキベースかエレキギターで、胴やネックに相当するところに大小いろいろのパッドが取り付けてあって、それを指で小刻みに叩いて、それがシンセサイザーで ドラムの音に変換されてしまうという代物。ほら、よく音楽聴きながらコツコツと指でテーブルを叩いたりする人がいるでしょう?あれでドラムが叩けてしまう 訳。「ドラミタール」と名付けられているけれど、明らかにドラムとシタール(ジョージハリソンもはまったインドの弦楽器)から文字った訳ですね。 ベースもその筋では相当に有名な名手の様です。基本編成はこの4人だけど、フュージョン・バンド、又はジャムバンドらしく、他にもいろいろな楽器と共演す る様で、何とバスーンとも共演してます。

こう書いて来ると、何だかキワモノめいて来たけど、音楽はとてもまともという感じです。それでいて、他にはこんなの無いなぁとも言える。一見淡々としているしそんなに派手さを感じないけれど、実は凄い演奏をしているんだと思いますね。

クラシックの編曲物も出しています。中には、ショパン、スカルラッ ティ、パガニーニも入っていて曲目を見るだけで「超絶技巧バリバリ」という感じだけど、やはりとてもまともですね。共演もジョシュア・ベル(バイオリン) とか、ジョン・ウィリアムス(ギター)ですから、ちゃんとしたもんです。ところで、このアルバムのタイトルは Perpetual Mortion と いうんですが、日本語に約すと「永久運動」という意味。要は、ベラ・フレックの弾くバンジョーのことを表しているんだと思います。彼のアルペジオは本当に永遠に続くんじゃないかと思えてきますから。そう、「バンジョーは止まらない」という感じ。

今回この人の紹介を書こうと思って、改めていろいろ調べているうちに、ベラ・フレック&フレクトーンズを紹介した記事があったので、ちょっと訳してみました。おもしろ半分で始めたけれど、途中で止めるのが悔しくて、結局3時間も掛かってしまった。(ふ〜っ)アメリカの「業界」の事も少し判って為になりました。でも、年間120回ものコンサートをこなすというのは凄い。

お勧めは、どれを聴いてもいいけれど、やはりデビュー・アルバムが いいかも。ベラ・フレックのリード振りがストレートに出ているアルバムだし、バ ンジョーの向うを張って活躍するハーモニカがカッコイイ。(このハーモニカ吹きは、サックス吹きが加わる前の創立メンバーのひとり。過酷 な旅回りに疑問を感じて抜けた様です。仕様がないですね。)

YouTubeでも、Flecktones で検索すればいろいろ出て来ますが、僕は取敢えずコレが好きですね。Big Country という曲で、CDにも入っていますが、こっちのライブ録画の方がおもしろい。よりカントリーっぽい雰囲気が濃いし、管の連中が3本になっ ていて(サックス2本と何とファゴットが1本)よりグルーヴ感が増していて気持ちいい。

音楽は本物だし、グラミー賞でも常連だし、日本で殆ど無名であるのが信じられないくらい。海外ツアーでも、中国/韓国まで来てるんですけどね。でも、知っててムダじゃないと思いますよ、このバンド。いずれにしても、個人的にはとても気に入っています。