映画「ワルキューレ」

映画「ワルキューレ」を観た。う〜ん、丁寧には作ってあるんだろうけれど、映画としては面白くなかったかな。
史実に忠実に、というのは判るけれど、ひねりも何も無いという感じ。ヨーロッパを舞台にしているという事で、例によってトム・クルーズ以外の主要なキャストはヨーロッパ(主に英国)出身の俳優たちで固めてある。みな堅実でそこそこ雰囲気のある演技だとは思うのだが、地味過ぎるしキャラクターの面白みが感じられない。主演のトム・クルーズも随分と地味な演技。でもそもそもトム・クルーズから「けれん味」を取ったら、何が面白いのだろうか?

題材としている「ワルキューレ計画」は、「7月20日事件」という名で広く知られたヒトラー暗殺及びクーデター未遂事件だったらしい。実は、僕自身何年も前に中公新書刊の「ヒトラー暗殺計画(小林正文著)」という7月20日事件を中心に取り上げた本を買っていた。もっとも殆ど読まずに居て、今回の映画をきっかけに初めてまともに読んだ。映画の記憶が鮮明に残っている事もあって、一気に読み通した。

本では、冒頭に事件当日の様子を時間を追って記述しているが、内容は映画と殆ど変わらない。家族とのエピソードこそ無いが、暗殺計画に関わるエピソードは殆ど細大漏らさずこの本にも出て来る。おそらく小林氏も映画も、共に定本とした同じ著作があるのだろうと思う。因みに小林氏の本の初版は1984年。事件自体、ドイツあるいはヨーロッパでは、第2次世界大戦終了後のごく早い時期に既に注目され、ナチ時代の「ドイツ人の良心を示す行動」として定番化されたらしい。

だとすれば、今更ながらに「史実に忠実に映画を作る」事にどういう意味があるか? 史実を題材にするにしても、映画的に面白くする方法はあると信じたいが。僕はトム・クルーズの「けれん味」はそんなに嫌いじゃない。あるいは、脇を固めるキャラクターにもう少し面白さがあっても良いと思う。極端な事を言えば「忠臣蔵」にいろいろいじり様がある様に。

忠臣蔵」に例えるのなら、ナチあるいはヒトラーの話はエンタテイメントには余りにシリアス過ぎるのか? あるいは所詮失敗したクーデターの話には、カタルシスが欠けるのか?

最近のハリウッド映画の例に漏れず、きっと美術/衣装の時代考証は正確を極めているのだろう。映像の重厚感はなかなかのモノではないか。しかもドイツ軍ものとあれば、マニアには堪らない映像なのかもね。