オペラ #2 「ポンテの王ミトリダーテ」(テアター・アン・デア・ウィーン)

Theater an der Wien
今回の旅行では、二つのオペラハウスとひとつのコンサートホールに初めて行く計画だ。ウィーンのテアター・アン・デア・ウィーンとコンツェルトハウス、ブダペストのオペラハウス。そのうちの最初がテアター・アン・デア・ウィーン。ここではモーツァルトの「ミトリダーテ」を観る。

この劇場がリンク通りの外にある、くらいの事は知っていたが、セセッション(分離派会館/金色のキャベツ)の並び、何と「ナッシュマルクト」の向い側にある。市場の側というのはロンドンのロイヤルオペラハウス(コヴェントガーデン)と同じだな、と思ったらちょっと違うらしい。an dea Wien というのは「ウィーン川河畔」という意味で、劇場のあった頃には脇にドナウ川の支流のウィーン川が流れていて、そこから付けられた名前だという。ウィーン川はその後暗渠(あんきょ)になり、その上にナッシュマルクト(市場)が出来た訳。ウィーン川は今では市立公園の中にコンクリートに固められた水路として顔を出し、ドナウ運河に繋がっている。
◆Theater an der Wien 正面  ナッシュマルクト(市場)に面している
 
創建者はあの「エマニュエル”パパゲーノ”シカネーダ」で、1801年の開設。その時には既にモーツァルトは死んでいるので(1791年)、モーツァルト作品の初演は無いが、代りにベートーヴェンの多くの曲が初演されている。歌劇「フィデリオ」に、交響曲第2、3、5、6番、ヴァイオリン協奏曲、ピアノ協奏曲第4番など。(知らなかった!) 後年には、J.シュトラウスの「こうもり」、レハールの「メリーウィドウ」などが初演されオペレッタのメッカとなり、最近はミュージカル劇場として有名だったそうだ。それがモーツァルトの生誕250周年の2006年に方針転換し再びオペラを中心としたクラシック専門の劇場になったという。そういう経緯を逆手に取って、ウィーンで一番古いオペラハウスながら敢えて「一番新しいオペラハウス」とキャッチフレーズを使っているそうだ。

建物の外回りを見る限りは、劇場という感じはしない。向かって左側は次の建物と繋がっていて、ちょうどニューヨークのカーネギーホールみたいな感じ。もう片側(右側)は道路に面していて、その中頃に通称「パパゲーノ門」と呼ばれる鳥刺しとその3人の子供の彫像を載せたファサードがある。パパゲーノと彼の3人の子供をモデルにしたものだそうで、その部分が創建当時の唯一のオリジナル部分だそうだ。
◆パパゲーノ門:今は正面でなく、建物の横にある
 
◆劇場の後ろ側:かなり地味、オペラハウスの裏側とは思えない

内部は、シュターツオパーなどと違い豪華なホワイエがある訳では無く、入口を入ればクロークを兼ねた小さいロビーの向うはすぐに客席部分に突き当たる。そこはフォルクスオパーと似た様な感じ。休憩時間にはそんなロビーに観客が納まる訳は無く、入り口を出て歩道に溢れる。
◆入口ホール(ロビー)がごく小さい

◆休憩時間にはドリンク売りも歩道に店を出す  向い側にこんな景色を見ながらの休憩
 

ホール部分については、オリジナルが残っているかどうかは定かではないが、かなり古いし、造りとしてはオリジナルの雰囲気を良く残しているのは確かな様だ。創建当時の中の様子を写したエッチングを見つけたが、今の様子と殆ど同じだ。
◆今の様子と創建当時の様子
 
◆客席の奥行きはかなり狭い  オケピットも小さい、40人入れば一杯だろう
 
 

古いだけでは無く、そんなに高い造りには見えない。かなり「時代が付いている」のは確かだが、例えばステージ上のドレープ部分は実はドレープに見せ掛けた木彫り。その他にも写真では判りにくいが、装飾の具合などハッキリ言って安っぽく見えなくも無い。でもそこが却ってシカネーダが造った「小屋」らしい気もする、といったらうがち過ぎか?
◆幕の絵も相当時代が付いている 舞台上部のドレープは実は木彫みたい


オペラ「ポンテの王ミトリダーテ」

2 May 2009

Mitridate, Re di Ponto (1770)

Opera seria in three acts
Music by Wolfgang Amadeus Mozart
Libretto by Vittorio Amedeo Cinga-Santi
Based on the play by Jean Baptiste Racine

Conductor: Harry Bicket
Director: Robert Carsen
Set designs: Radu Boruzescu
Costume designs: Miruna Boruzescu
Lighting: Robert Carsen/Peter van Preat

Mitridate: Bruce Ford
Aspasia: Patricia Petibon
Sifare: Myrto Papatanasiu
Farnace: Bejun Mehta
Ismene: Christiane Karg
Marzio: Colin Lee
Arbate: Jeffrey Francis

Vienna Symphony Orchestra
Theater an der Wien 

物語の設定は元々紀元前の黒海沿岸(今のトルコ辺り)らしいが、この演出では現代のどこかの(架空の?)戦場に設定を移している。舞台セットもいきなり爆破された建物の瓦礫の中。ミトリダーテが将軍、その2人の息子(ファルナーチェとシーファレ)とひとりの女性(アスパージア)を巡って入り乱れるという設定。まぁ紀元前のコスチュームプレイより判り易いかも。

まず感じた事は、ホール/客席がシュターツオパーに比べてかなり小さい(2200余り vs. 1400)せいか、オケの音も歌手の声も近くに聞こえて緊迫感がある。良く響くというより「近い」。オケはウィーン交響楽団。休憩時間に数えてみたけれど、奏者数は30人余り。それでもピットは結構一杯。(レチタティーヴォ用のチェンバロが結構場所を取ってはいるけれど)

歌手では、アスパージアを演じるパトリシア・プティボン(フランス人)とシーファレ(男)に扮するミルト・パパタナシウ(ギリシャ人)という二人のソプラノが出色。この作品はモーツァルト14歳の時の作品だというが、確かに後期の作品を知っているからいろいろ若書きの部分を指摘出来るのかも知れないが、独特の疾走感は明らかにモーツァルトのもので、そういう部分を二人のソプラノが小気味良く歌ってくれる。やはり若くて勢いのあるソプラノは気持ちが良い。

それにしても長かった。モーツァルトの初期の作品ということで、むしろ短い物と勝手に思い込んでいたら、休憩2回を加えるにしても4時間近く掛かった。7時の開演で、終わったら殆ど11時。それでもそんなに飽きなかったのは、歌手が面白かったのもあるけれど、小さめのオペラハウスでの緊迫感に助けられている部分があるかも。こういうところで「魔笛」や「フィガロ」もぜひ聞いてみたい。

もっとも「魔笛」初演された元のシカネーダの劇場は800席くらいしかなかったそうだ。そんなところで上演されるとどんな感じなのか、考えるとちょっとワクワクする。
◆左から2番目がパトリシア・プティボン  一番右がミルト・パパタナシウ