オペレッタ 「メリーウィドウ」(フォルクスオパー)

シュターツオパーが取れない穴埋め、という事で取ったフォルクスオパーの「メリーウィドウ」だったが、正直「ごめんなさい」という気持ち。いやぁ、面白かった。久し振りに「泣いて、笑って」という観劇。

筋立ては3幕もの。休憩は一幕と二幕の間だけで、二幕と三幕の間は間奏曲で繋がって休憩無し。今回もまた、まともに観るのは殆ど初めての演目。

第一幕は艶笑めいたやり取りが緩く続いて「レハールってこんなものか、やっぱりJ.シュトラウスの「こうもり」辺りの方がずっといいんだ」という印象。ところが二幕目が始まって冒頭にあるハンナ(主人公のソプラノ)の「ヴィリアの歌」でガツンとやられる。迂闊にもこんな素敵な歌を知らなかった。久し振りに歌を聞いて、ちょっと泣いてしまった。

この幕はまた衣装も新鮮。一幕目は華やかだけれど、いわゆるパーティーのイブニングドレス姿。二幕目は主人公たちの国(架空のバルカン半島の国)の民族衣装で集まる趣向のパーティーという場面。ルーマニア/ブルガリア辺りっぽいいでたちで、これがなかなか可愛いし、白基調なので舞台がとても明るくなる。

音楽も俄然豊かになる。民族衣装に合せてエキゾチックなダンス音楽が出て来たり(この部分は本職のバレエ団の面々が出て来る)、「ヴィリアの歌」の様な泣かせる歌が出て来たり、楽しい「女、女、女のマーチ」もある。三幕目で本格的に出てくるあの「メリーウィドウ・ワルツ」の触りも聞こえてくる。

三幕目は再び本来のパリのパーティーの場面。(結局三幕とも基本はパーティー場面) 見ものは冒頭のフレンチカンカン。これもバレエ団の綺麗どころが出て来るのが、本当に美しくて楽しい。この場面の音楽は勿論「天国と地獄」。一瞬「天国と地獄」はレハールだったか?といぶかったが、勿論オッフェンバックの曲。やはりフレンチカンカンの音楽は「天国と地獄」以外に考えられないが、オペレッタというジャンルを確立したオッフェンバックへのオマージュという意味もあるんだろうか。

そして「唇は語らずとも」のデュエット。「メリーウィドウ・ワルツ」として知られるこの曲は誰でも聞けばすぐに判ると思うけど、歌詞は「唇は語らなくても、ヴァイオリンは囁く。僕を愛して、と」という本当に歯の浮く様なラブソング。まぁ今更だが、オジサンがひとりで聞いてどうするんだというヤツ。でもいい曲だな。この曲とJ.シュトラウスの「ウィーン気質」は本当にいいと思う。出来ればキチンとドイツ語で覚えたい。

オペレッタというのは芝居の要素が強いので、キャストの容姿も重要だから、みんなそれなりにはまっていて、それだけに感情移入し易い。それにここは基本的にみな「座付き役者(歌手)」なので、アンサンブルもいい。また、殆どソロでは歌わないがいわゆる「コメディリリーフ」役の俳優(大使館の書記官役)が面白い。ドイツ語なんて判らないけれど、捨て台詞(森繁なんかが得意にしていた芝居の繋ぎにボソッと呟くような台詞)のところまで笑えてしまう。まぁ他の観客につられてだけど。

コメディリリーフ役には女性もいたけど、この人が今は亡き塩沢ときそっくりないでたち(派手に髪を結い上げて、おかしな眼鏡をかけた格好)なのには笑った。

そしてやっぱりオケは本当にしっかりした音をしている。やはり基本的にここはオペラハウスなのだ。演目をみたら今月もオペレッタやミュージカルもあるけれど、「魔笛」や「ナクソス島のアリアドネ」(リヒャルト・シュトラウス)までやる。メンバー表をみたら、ヴァイオリンにふたり、ヴィオラにひとり日本人奏者が居る様だ。皆、女性。

終演後、カーテンコールでは勿論指揮者も呼び出されていたが、特別に花束が渡されてオケとキャストから「ハッピーバースデー」を贈られていた。例のコメディリリーフ役の俳優が結構長いスピーチをしてその後すごい拍手。ドイツ語が判らないので、後でネットで調べたらなかなか名物指揮者らしい。指揮者ルドルフ・ビーブル氏は1929年生まれというから昨晩のお祝いは80歳の誕生日か。「メリーウィドウ」は2000回以上、「こうもり」は1000回以上指揮していて、ウィーンのシュターツオパー、ロンドンのコヴェントガーデン辺りでも「こうもり」をやるとなれば呼ばれてしまう人らしい。(N響でも振っているらしい) それにしても、その前の晩のジョルジュ・プレートル氏(85歳)といい、このルドルフ・プレートル氏といい、本当に元気。

ところでこの演目は、アメリカっぽく言えば「スクリューボール・コメディ (男と女が対立を繰り返しながら恋に落ちて行くというストーリー展開)」だけど、歴史的に見ればこっちの方が御本家。一時期アメリカのミュージカル映画にはまった事があって(明らかに和田誠の「お楽しみはこれからだ」辺りの影響)、1940〜50年代あるいは30年代のフレッド・アステアジンジャー・ロジャースのRKO時代のシリーズまで観たことがあるが、それらはダイレクトにオペレッタの影響を受けているのが判る。実際、ブロードウェイの初期の頃にはウィーンから渡った作曲家が活躍したりしている。あの怪優ホセ・フェラーが映画「我が心に深く(Deep in My Heart 1954)」でそういう作曲家ジークムント・ロンバーグ(正確にはハンガリー出身でウィーンで勉強した人)を演じている。この人の曲で今も残っているのは、例えば「恋人よ我に帰れ(Lover Come Back to Me)とか。因みにこの映画には、あの「カサブランカ」のポール・ヘンリード(バーグマンの夫役)がブロードウェイ初期の伝説のプロデューサー、フローレンス・ジークフリードに扮していたり、ジーン・ケリーも出ていたりしている。

あるいは「アステア&ロジャース」の30年代の映画で「ロマンティック」というのがあるけれど、この原題は「Gay Divorcee (陽気な(離婚した)独り者)」。これは「メリーウィドウ(陽気な未亡人)」を意識したもの、あるいはオマージュじゃないかと思う。話は典型的なスクリューボール・コメディだし。どこにもそういう話は出て来ないけれど、この説にはかなり自信あり。因みにフレッド・アステアはオーストリア移民の息子。本名は「フリードリッヒ・アウステルリッツ」というんだそうだ。その意味では、オペレッタ−ミュージカルと続く系譜の正統なる継承者、というのはうがち過ぎだけど。

勝手にいろいろ書き散らかしているけれど、取敢えず自分の好きなモノがひとつの輪に繋がっていく様で楽しい。

「メリーウィドウ」の初演は、この旅行で初めていったテアター・アン・デア・ウィーン。あの劇場でもぜひ観てみたい。もっと近く感じるんじゃないかな。

いずれにしても、やはりウィーンでオペレッタ見物は欠かすべきじゃない、というのが結論。

Die Lustige Witwe (The Merry Widow)
Operetta from Franz Lehár
Friday, 08 May 2009 19:00
Volksoper, Wien

Directed by: Daniel Dollé
Set design by: Daniel Dollé
Costumes: Cathy Strub
Choreography: Lukas Gaudernak
Choreography: Gerhard Senft
Choirmaster: Thomas Böttcher
Dramaturgy:: Birgit Meyer

Conductor: Rudolf Bibl
Valenciennes Renée Schütte Gruber
Hanna Glawari: Ursula Pfitzner
Sylviane: Selma Carnival
Olga: Susanne Litschauer
Praskowia: Mirjana Irosch
Baron Mirko Zeta: Sándor Németh
Count Danilo Danilowitsch: Dietmar Kerschbaum
Njegus: Robert Meyer
Camille de Rosillon: Sebastian Rein Thaller
Viscount Cascada: Christian Drescher
Raoul de St. Brioche: Thomas Tischler
Bogdanowitsch: David Busch
Kromow: Raimund Maria Natiesta
Pritschitsch: Alfred Werner