映画「グラン・トリノ」

これも今回の旅行絡みの話か?

「飛行機の中では新しい映画は観ない。気になる作品は映画館で観よう」と心に決め筈なのに... 結局ウィーンからの帰りロンドンからの便で観てしまったクリント・イーストウッドの「グラン・トリノ」。

宣伝によれば「妻に先立たれた頑固で偏狭な老人」という役回りだが、毒づくところはあるにせよ、そんなに変人を演ずる訳では無く、ツール(工具)や車(フォード「グラントリノ」!)をこよなく愛する元自動車工は、観客にはおなじみの愛すべきクリント・イーストウッドのキャラクターのひとりだと言ってもいい。朝鮮戦争のヴェテラン(従軍経験者)でもあるこの主人公は、隣人のアジア系(モン族又はミャオ族)移民に差別意識を持つが、それは自分が朝鮮戦争でした事への後ろめたさの裏返しでもあるらしい。

やがてある切っ掛けで、隣人のモン族一家の寡黙な少年を鍛える事になる。「鍛える」といっても格闘技めいた事ではなく、古き良きアメリカの男たちが愛したDIY(Do-It-Yourself)的家周りの仕事。でもその辺りの描き方が、ちょっと「Karate Kid (邦題:ベスト・キッド)」に似ている。あれはアジア系の老人が白人の少年を鍛える話だが、こっちは白人の老人がアジア系の少年を鍛える。そう言えば「Karate Kid」はシリーズになって、4本目の「Karate Kid4」では、あのヒラリー・スワンクが少年に代わる少女役をやっていた。後にスワンクはクリント・イーストウッド監督の映画「ミリオンダラー・ベイビー」に出て、見事オスカーを獲った。(いつもながら余談ですが)

この映画でも、最後は多くのイーストウッドの映画がそうである様に、殴り込みを掛ける。やはり高倉健クリント・イーストウッドには殴り込みが良く似合う。但し、今度はちょいといつもと趣向が違う。殴り込みに行きながら、同時に自分の背負ってきた罪に対する贖罪を果たす。60歳を過ぎて「許されざる者」で老ガンマンを演じた時も壮絶な殴り込みを描いたが、思えばあれはまだまだ若いイーストウッドだった。あれから15年以上経って70代も後半の彼が演じた今回の殴り込みは、もう二度とは使えない手だと思うが、他ならぬクリント・イーストウッドだから余計感慨深い。(とまぁ、思わせ振りな言い方で恐縮ですが観れば判ります)

他のキャストで面白かったのは、しつこく主人公に懺悔をうながす若い牧師役の人。他では見た事の無い俳優だが「頭でっかちの生真面目な27歳の童貞」という雰囲気が良く出ている。ルネサンスの絵に出てきそうなちょっとポチャッとした色白で赤毛の若い聖職者。

それにしても多くの俳優はクリント・イーストウッドを羨んでいるだろう。70歳を越えて益々味のある映画を作り、そして自分でも出演する。どれも変に大作ぶらず面白い映画だ。何とこの映画では、エンディングの唄まで歌ってしまっている。つぶやく様な歌い方が渋いですよ。ピアノも上手いらしいしね。

監督はまだ続けるけれど、この映画が最後の出演作になるかも知れない、と言われているらしい。本当かな? まぁどちらでもいい。クリント・イーストウッドだから。