映画「スタートレック」

僕たちオジサン(今年で50歳)には、今に語り継がれるSFものの定番、「ウルトラマン」「ウルトラセブン」や「スターウォーズ」の最初の3部作などをリアルタイムで観てきた、という自負がある。日本では「宇宙大作戦」と名付けられた「スタートレック」のオリジナルのTVシリーズもそのひとつだろう。

これまでの「スタートレック」の映画版(6本にもなったらしい!)は、TVシリーズのオリジナル・キャストが中心であったにも関わらず違和感があった。精々「後日譚」あるいは同窓会くらいにしか受け止められない。70年代後半の「スターウォーズ」や「未知との遭遇」のSF映画あるいは特撮技術の革命を経て映画化されたので、大作映画らしい装いを身に着けようとはしていたけれど、どこか「違うよなぁ」という思いで観ていた。

それが、今回はキャストを全面的に若返らせ(それでもレナード”スポック”ニモイは出て来る)、オリジナルTVシリーズの「前史」にあたる部分を作った。この手は実は新しいものでは無く、バットマンでもクリスチャン・ベイルを使ってバットマン誕生のエピソードを作っている。結論から言えば、バットマンもそうだった様に、今回の「スタートレック」も結構面白かった。

カーク船長にはワイルドさが戻った。今回のスポックはオリジナルのレナード・ニモイの若い頃より甘く、より感情的だ。ニモイのスポックは、むしろ映画時代より、TVシリーズの若い頃の方がずっと無機的・無感情だった。それにしても通信仕官のウフラと恋仲だとは知らなかった。TVシリーズの時もそんなニュアンスがあったのだろうか?当時は小学校低学年でしたからね、判りませんでした。

オリジナルのシリーズを知る者として面白かった(というより、嬉しかった)のは、あの「転送装置」が重要なプロットに使われていたこと。TVシリーズは60年代半ばで、まだCGも無かったから、目立った特殊効果はこの「転送」くらいだった筈だ。それ故に印象が強い。アメリカでは「Beam me up, Scotty (スコット、転送しろ!)」というカーク船長のセリフは、良く知られた言い回し。パロディも一杯有って、例えばいい加減下らない会話から抜け出したい男とか、ヘマをやらかしてみんなから非難の目を浴びて逃げ出したい男が、「Beam me up, Scotty (スコット、転送しろ!)」と言って落ちを着けるというスキットは良く出て来る。

と書いてきて、念の為ウィキペディアを読んでみたら、オリジナルのTVシリーズでは似たようなセリフはあったが、そのものズバリの「Beam me up, Scotty」というのは無かったそうだ。そういう「伝説」が生まれるのも、長い間人気を持つ作品らしい。それにしても今回の映画の中で使われているかどうかは確認し損ねた。そのうちDVDでも出て来たら、念入りに確認しよう。

因みに「スターウォーズ」のお決まりのセリフは、ハン・ソロがオリジナルの「I have a bad feeling about this. (嫌な予感がするぜ)」というヤツ。このセリフはその後続くシリーズの中でいろいろなキャラクターが使うし、他のルーカスが関係した映画の中でも使われる。逆に大体はその範囲に留まっている様だが、「Beam me up, Scotty」の方はもっと一般的になっているかも知れない。

相変わらず脱線気味ですが、他にもTVシリーズに直接繋がるモノが出て来て懐かしい。ひとつはクルーの乗船時のコスチューム。あのクルーネックのちょっと安っぽいコスチュームはオリジナルキャストによる映画ではもっと立派な(シニアな)制服に変えられてしまったが、今回はキャストが大幅に若返ったこともあってか、昔のシルエットに近いものになった。(素材感や細部のデザインは少しづつ違うが、テイストは似ている)

泣かせるのは、エンドロールの音楽。TVシリーズの時の音楽が使われている。勿論編曲も録音も新しいが、思わずニヤッとしてしまう。

そんな訳で、オリジナルTVシリーズを知るオジサンには嬉しい造りで、なかなかに面白く観た。逆にTVシリーズを知らない若者たちが見るとどう思うのか、というのもなかなか興味がある。