オペラ「スペードの女王」(シュターツオパー)

ロシア物とは言っても、メインキャストにロシア人が居る訳では無いらしい。

やはり聴き物は、テナー(ゲルマン役)のNeil Shicoffとメゾ・ソプラノ(伯爵夫人役)のAnja Silja。
Shikoffは、ブロンクス出身でメトでデビュー。その後欧米で華々しく活躍した後、一度メンタルダウンに陥り第一線を退いたが、またカムバックしたという異色の人。年齢は丁度60歳だというが年齢は感じさせない。またその経歴が反影している訳では無いだろうが、役柄のエキセントリックさが、はまっている様に思う。

伯爵夫人役のAnja Siljaは、物語の鍵を握る「伝説の過去」を持つ役柄だけれど、この人自身も華麗な過去を持つ人だ。ベルリン出身で19歳の時にベーム指揮のシュターツオパーで「魔笛」の夜の女王を歌い、20歳でバイロイトにデビューしてあのヴィーラント・ワーグナーワーグナーの孫で伝説の演出家)に可愛がられワーグナー歌手として認められた。彼の死後は指揮者のアンドレ・クリュイタンスと浮き名を流し、最終的にはドホナーニと結婚して3人の子供を設けた(その後離婚)という人。僕は未だに歌手を良く知らないのだが、この人はきっと「知る人ぞ知る」なんでしょう。70歳という年齢もあってか、声量は無いかも知れないが、やはり雰囲気は辺りを払う。それにワーグナーを得意にした人らしくドラマティックな歌い振り。

それにやはり聴きものだったのは、オーケストラ。チャイコフスキーの音楽(オケ)は、やはり密度が濃い。交響曲2〜3曲分はある感じ。これだけオケが厚いと、決して歌い易くはないんじゃないだろか。終演後はいつもならば歌手達のカーテンコールを尻目にサッサと引き上げてしまうオケの面々も、今宵ばかりは指揮者が舞台に呼ばれるまで待って挨拶をしていた。

歌とオケに満足しながら、不満が残ったのはまた舞台装置と演出。基本の舞台装置は終始変わらず、大きな階段と細長い窓が連なった灰色い部屋。それに階段の上にある中2階ともいうべき半透明ガラスに囲われた部屋。これを孤児院やパーティー会場や賭博場に見立てるという趣向だが、正直経費節約というのがあからさま。(「賭博場」に見せたいからといって、無理矢理スロットマシーンを置いても違和感が大きいだけ)

またゲルマンを始めとする男性キャストもスーツ姿だから、元々の職業軍人という設定は消えているし、そういう階級の人間がギャンブルにはまっていくというギャップは表現できず、主人公のゲルマンは始めから破滅的なギャンブラーとしか映らない。

それにも増して納得しがたいのが、パーティーのシーンと伯爵を死に追いやるシーン。パーティーのシーンでは、女たちが(おそらくバレエダンサーたち)レオタード姿にガウンを羽織って、しなを作りながら下りてくる。そして女装をした男たちも。そのうちデカダンな乱痴気騒ぎになる。まぁ、ヴィスコンティの「地獄に堕ちた勇者たち」の出来の良くないイミテーション。

ゲルマンがカード賭博の秘密を教える様に伯爵夫人に迫るシーンも、変に猥褻でいささか鼻白む。

確かに経費問題は抜き差し難いのかも知れないが、確実に方向性が違うという気がした。

22 September 2010
Staatsoper
PIQUE DAME
Peter I. Tschaikowski
Tugan Sokhiev: Dirigent
Vera Nemirova: Inszenierung
Johannes Leiacker: Bühnenbild
Marie-Luise Strandt: Kostüme
Aida Guardia: Bühnenbildassistenz
Stephanie Freyschlag: Kostümassistenz

Neil Shicoff: Hermann
Albert Dohmen: Tomski und Pluto
Boaz Daniel: Jeletzki
Anja Silja: Gräfin
Angela Denoke: Lisa