「ディアギレフとロシアバレエ団の黄金時代(1909〜1929)」(ヴィクトリア&アルバート美術館)


出張からは一昨日の金曜日に帰って来た。観光をする時間も気分も無かった筈が、唯一例外が有った。

南仏のマルセーユからロンドンに入った日、ホテルに向かうタクシーの中からある建物の周りにオレンジ色の幟が幾つも旗めいているのが目に付いた。字を追ってみると「Diaghilev(ディアギレフ)」とある。ホテルはそこから程近いところに有り、チェックインももどかしくPCを立ち上げて調べてみると、その建物は Victria & Albert Museum (通称 V&A)で、そこで「ディアギレフとロシアバレエ団の黄金時代(1909〜1929)」という特別展が催されていることが判った。


丁度夕食の時間まで3時間位は何も予定がなかったので「絶対に見なければ」と美術館に駆け付けた。

これはロシアバレエ団に興味のある人間は、ぜひ見るべき展覧会だ。パリで開かれた伝説の最初の公演からディアギレフの死に至る20年間のロシアバレエ団の足跡と主要な演目にまつわる品々が豊富に展示されている。圧巻は衣装のコレクション。「ペトルーシュカ」や「春の祭典」のオリジナルの衣装も数多くある。サティが音楽を付け、ピカソが衣装をデザインした「パ ラード」なども。やはりオリジナルを目の前にすると圧倒される。実際にニジンスキーやカルサーヴィナたちが身に着けた衣装なのだ。

大分前に紹介した「ディアギレフ」を書いたリチャード・バックルは、イギリスの研究者だが、彼の本に出て来る図版(写真やデッサンなど)の多くのオリジナルもこの展示会で見られる。彼自身も1954年に「ディアギレフ展」を企画して世に出た人だそうだけれど、今回の展覧会もその時と同じ展示物が数多くあるのだろう。リチャード・バックルの著作を知っていると、その雰囲気をそこかしこに感じ取れる展覧会だった。

ディアギレフのロシアバレエ団が無かったら、20世紀の芸術はどんな風になっていたのだろう。音楽家にしろ、画家にしろ、バレエだけに関わっていた訳では無いから、何も起こらなかったことは無いにしても、大分変わった道を歩んだことだろう。例えば、ストラヴィンスキーはどうなっていたか? それにしても、あの一大ムーブメントがディアギレフという一人の男の趣味と構想から生まれたというのは凄い。創作者ではなく、インプレサリオあるいはプロデューサーであるからこそ様々な才能を集められたいうことなのだろうけれど、一流のディレッタント(好事家/趣味人)であるということは凄いことだ。

ディアギレフの遺品もいろいろ展示してあって、デスマスクさえあったが(静かな端正な顔立ち、糖尿病で死んだということで却って少し痩せたのだろう)、一番生々しく面白かったのは大きなトップハット(シルクハット)。ディアギレフは頭の鉢が大きかったのだ。

Diaghilev and the Golden Age of the Ballets Russes, 1909-1929
25 September 2010 - 9 January 2011
Victoria and Albert Museum
Cromwell Road
London SW7 2RL