2022 春:ワーグナー「トリスタンとイゾルデ」(Wiener Staatsoper)

「トリスタンとイゾルデ」を全編、しかも生で見聞きするのは初めてだ。大体第1幕への前奏曲だけを聞いて、知っているつもりなのが怖い。

主役の2人はともに地元オーストリア生まれ。とにかく質量ともに膨大なそれぞれの役を歌い切ったという感じ。私にはそれだけでも賞賛に値する。(とりわけ第2幕!)

イゾルデ役のMartina Serafinは「ばらの騎士」の元帥夫人も当り役で、昨年のオンライン公演(シュターツオパー)でも演じていたし、中止になってしまった来日公演でもその役を歌う筈だった。機会があれば、「ばらの騎士」もぜひ生で観てみたい。

音楽監督のフィリップ・ジョルダンは今回初めて観た。見た目通りの端正な指揮振りと見たが、ワーグナーも変に重くなくて良い。

問題は今シーズン初お目見えの「新演出」なるもの。多くは語りたくないのだが、歌や演奏の邪魔をして、必要以上に何かを表現しようとすることに何か意味があるのだろうか? 観る者に理解出来ない表現にも何か寓意が込められているのかも知れないけれど、So What!!と言いたい。歌手とオーケストラの熱演に感動するがゆえに、ひどく後味が悪い。これまでいくつかのオペラを観て来て、自分の趣味がそこそこ保守的であることも分かってきたが、それにしても、この演出が良い意味で「革新的」などとはとても思えない。

さて今回、シュターツオパーで新しくなっていたのは、客席に据え付けられたディスプレイ。従来は、2行表示するのが精々だったものが、新しいものはカーナビのディスプレイくらいある。言語はドイツ語を含め8カ国語選べて、東洋系では日本語と中国語が選べる。実は今回、中で買ったプログラムには、前にはあった日本語のあらすじページが無くなっていた。(英語はまだある)でも今回のこのプロンプターのお陰で随分と筋を追い易かった。日本語も変な引っ掛かりが無く、こなれている感じ。

それで改めて実感したのだが、ワーグナーのテキストはしつこい(特にこの作品が強烈なのかも知れないが)。ケルト伝説が元になっているということだけれど、同じ文脈の愛や恨みの言葉が延々と繰り返されいささか食傷気味になる。正に音楽無しには聞いていられない。(そもそもその音楽こそが革新なのだけれど)それでもセリフが判らないがゆえに、いつもは途中で決まってダレ場(要は眠くなること)があるが、今回それが無く4時間近くの長丁場を乗り切れたのはプロンプターのお陰かも知れない。

Wiener Staatsoper
Sunday 1 May 2022, 17.00 - 22.00

Richard Wagner
TRISTAN UND ISOLDE

Musical Direction: Philippe Jordan
Production: Calixto Bieito
Stage Design: Rebecca Ringst
Costume Design: Ingo Krügler
Lighting Design: Michael Bauer

Tristan: Andreas Schager
König Marke: René Pape
Isolde: Martina Serafin
Kurwenal: Iain Paterson
Brangäne: Ekaterina Gubanova
Melot: Clemens Unterreiner
Hirt: Daniel Jenz
Steuermann: Martin Häßler
Stimme des Seemanns: Josh Lovell

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◇新しいディスプレイ

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