このオぺラの序曲は有名だし、個人的にも良く知っている。大学のオケに入った頃、先輩たちはこの曲と外山雄三のラプソディー、そして春祭というプログラムをひたすら習っていた。
僕たち1年生の殆どはまだ演奏には加われず、ひたすらスコアを見ながら練習を聞いていた。もう30年以上も前の話。
そういう風に考えると、30年余を経てウィーンで初めて元になるオぺラを観ることになるとは、ちょっと感慨深い。あの頃は吹奏楽やオーケストラの前プロ(演奏会のプログラムの前半部分の演目)として、いくつかのオペラの序曲を知ってはいたけれど、元になるオぺラには全く思い至っていなかった。今の若いひとたちはどうなんだろう。
昔し話が長くなった。
という訳で期待していた初めての「運命のカ」。確かに歌とオケは充分に楽しめた。ヴェルディらしいドラマティックなアリアがいくつもちりばめられているし、メインキャストによる重唱、特にテナーとバリトンのそれは素晴らしかった。バリトンのZeljko Lucic(ドン・カルロ役)という歌手はセルビア出身で、来年の夏に日本に来るメトロポリタン歌劇場公演でも主要キャストらしい。
第3幕への前奏曲(と呼んで良いのだろうか?)は、ほとんどクラリネット協奏曲の緩徐楽章と言っていい位クラリネットのソロが続く。(見事な演奏だった!)幕が始まってからもテナーとバリトンがクラリネットとファゴットと掛け合って面白い。
あんなソロは、演奏会であれば終演後には指揮者に立たされて拍手喝采を浴びるところだが、オペラではその手の拍手を受けられるのは歌手だけ。オケの奏者はピットの中で姿は見せられないし、立たせても貰えないが、きっと仲間たちから控え目な祝福を受けるんだろうな。
だが、問題は演出。元の設定は18世紀のイタリアまたはスペインということになっているが、例によってシンプルな舞台装置に時代設定は不詳。衣装もスーツなどを用いてごく簡素化している。その辺りは良いとしても、物語のアクセントになっているジプシー女(メゾソプラノ)が、ショートパンツにテンガロンハットをかぶったカウガールというのは、一体どういう訳??
更に仲間たちとおぼしき真っ赤な衣装を身に付けたカウボーイ、カウガール姿のバレエダンサーたちがひとしきり踊る。「必然性が無い」とは敢えて言わないが、それでも「演出」「解釈」と片付けていいのかなぁ?
それと、物語を象徴した(つもりの)映像も序曲に始まって繰り返し使う。正直、コンサート・ピースとしても確立した序曲だから、じっくり聴かせて貰いたいのが本音だし、そもそも映像としても何のひねりもない代物、というのが僕の感想。
結局全く納得のいかない演出だった。
21 September 2010
Wiener Staatsoper
LA FORZA DEL DESTINO
Philippe Auguin | Dirigent
David Pountney | Regie
Richard Hudson | Ausstattung
Beate Vollack | Choreographie
Fabrice Kebour | Licht
fettFilm (Momme Hinrichs und Torge Möller) | VideoEva-Maria Westbroek | Leonore
Zeljko Lucic | Don Carlos
Fabio Armiliato | Alvaro
Ferruccio Furlanetto | Padre Guardiano
Nadia Krasteva | Preziosilla
開演前、夕暮れのオペラハウス
演目のポスター:ウェブと同様デザインを変えた。幕間に売店で買おうと思ったら、今は販売しなくなったという。本当かな?
舞台の上の白い矩形の構造物が主な舞台装置