ウィーン 夏の演奏会

最初の2日間でザルツブルク音楽祭を堪能して、その後はウィーンに移って4泊(正味3日間)もしたが、余りあくせくせず緩い観光を続けた。

夏のウィーンは、観光客でいっぱいだ。いや、本当に。

真夏のウィーンともなればクラシック音楽はいわゆるオフシーズンだけれど、「音楽の都」ウィーンは観光客への音楽のサービスを欠かさない。国立歌劇場、ムジークフェライン、ウィーンフィルが最初の演奏会を開いた王宮のホール、シェーンブルク宮殿、「ばらの騎士」の着想されたというどこぞの元貴族の館、J.シュトラウスの楽団が夜ごとウィンナワルツを奏でたクアサロン、シュテファン寺院にカールス教会、その他由緒正しき諸々の場所で何がしかの団体が何がしかの演奏会を開いている。まぁ、いわゆる肩の凝らないものばかりだけれど。

ということで、折角4泊もするので、どこか冷かしてみますか?という気分で、まず伺ったのが「ウィーン・モーツァルト・オーケストラ」。奏者がバロックのコスチュームに身を包むあのコスプレ・オケ。

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主だった観光スポットで、日本人とおぼしき観光客を見掛けるとこれもコスプレのチケット売りがカタコトの日本語ですり寄って来る。オフシーズンに、国立歌劇場、ムジークフェライン、コンツェルトハウスというみな2000人前後のキャパを持つ会場を巡回する様にコンサートを開いていて、我々がウィーンにいた 週は国立歌劇場が会場の週。我々もウィーンに着いてから、翌日のコンサートの分を街のチケット売りから買った。決して安くはない。ご本家のオペラ公演と変わらない様な値段設定だ。

さて、当日。午後8時の開演だが、7時にはもう1階のロビー部分には人が集まっている。ご丁寧にプログラムやグッズ売りの女の子たちもコスチュームに身を包んで、客の求めに応じて一緒に写真に納まったりしている。いや、なかなかみんなかわいい。

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席は、天井桟敷の一階下。舞台はオケピットにふたをして作られているので、前の方は良く見えない。本舞台は鉄の緞帳が下りて、固く閉じられている。

開場後すぐに席に着き、客の入りを眺めていた。最初は「本当に全部入るのかな?」と訝しがったけれど、開演までにはほぼ埋まったから大したもの。

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プログラムは、モーツァルトの交響曲や協奏曲の楽章をピックアップし、合間にオペラのアリアやデュエットを入れるというもので、彼らの解説に依れば「18世紀には一般的であった『音楽アカデミー』と呼ばれるコンサート形式」だそうです。最後は「美しき青きドナウ」と「ラデツキー行進曲」で締める。演奏は、結論から言えば至極まとも。 ヴァイオリンは2プルトづつで少し弦が弱いとは思ったが、クラリネット協奏曲(2、3楽章)のソリストは良い音をしていたし、歌手も決して下手じゃない。

問題は観客。観光客ばかりなのはいいが、その態度はカジュアルというよりワイルド。演奏中の写真撮影なんて当たり前だし、ビデオまで回している。それもスマホでライトが点灯させたままでもお構いなし。我々の席の辺りは舞台が良く見えないこともあり、立ち上がって観る人間も続出。勿論、普段であれば頭に来るところだけど、あれだけ周りでワイルドにやられて、むしろ自分たちがマイノリティという立場に置かれると、呆気にとられるばかり。もっとも我々の席は一番下から2番目のカテゴリとはいえ 、絶対金額的にはかなり取られているので「もうちょっと、ちゃんと聞かせて」と後から思ったけれど。

 

最後の晩は、これはこじんまりと弦楽四重奏の演奏会へ。

「モーツァルトハウスのコンサート」と銘打っていて、これも場所に由緒がある。シュテファン寺院のすぐそばにあるドイツ騎士団(又はチュートン騎士団)修道会の中の小さい広間「サラ・テレナ」がその会場。この修道会の宿舎が「モーツァルトハウス」と呼ばれてはいるのだが、実は彼が滞在したのはたった6週間でしかない。(1781年)ただその時にザルツブルク大司教と決別することを決めたということで、有名な場所らしい。後年ブラームスもウィーンに出て来て間もない頃1年以上ここに滞在したというから、そちらの方が余程住んでいたことになる。

さて「サラ・テレナ」は、その修道会の建物の一隅に作られたドーム状の広間で、18世紀後半に作られたそうだが壁から天井に至るまで動植物やグロテスクな模様のフレスコ画に埋め尽くされていて一見の価値はある。

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演奏は「モーツァルト・アンサンブル・ウィーン」という名前を付けたカルテットだが、素性は良く判らない。メンバーは年配のバイオリンの女性2人とヴィオラの男性。ファースト・ヴァイオリンとヴィオラは同じ苗字(Nemeth)だったので、夫婦かも知れない。チェロの女性はまだかなり若い。このチェロが良く弾いていたと思う。

プログラムはモーツァルトのディベルティメント、ハイドン(伝)の有名な「セレナーデ」カルテット、モーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」にドボルザークやメンデルスゾーンの有名な楽章を織り込んだもの。小さなドームなので、ひどく音が響いて最初は驚いたが、それはすぐになれた。

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客席は40人も入らないと思うが、この日は我々を入れて10人そこそこしか入っていなかった。プレーヤーにはちょっとかわいそう。実は予めこの演奏会を調べた時に非常にキャパの小さい会場だと判っていたので、わざわざネットで手数料まで払って買ったのだけれど、全くその必要はなかった。それはこの季節、どの演奏会も同じだろう。そもそもオペラを含めてクラシック音楽を見聞きしたい人は余り真夏のウィーンには近寄らないかも知れないが、もし行く機会があったら、街に着いてからゆっくり決めればいい。慌てて買っておいても、手数料を余計に取られるのがオチだ。

これまで、9月から5月までのクラシックのオンシーズンに何度となく訪れたウィーンだが、真夏に来たのは初めて。観光シーズンとしては、この季節の方がオンシーズンである訳で、いろいろ様子が判ってそれはそれで面白かった。