映画「シャネルとストラヴィンスキー」@シネスイッチ銀座

原題は「ココとイーゴリ」。ファースト・ネームの組合せとファミリー・ネームの組合せの違いだけれど、要はココ・シャネルとイーゴリ・ストラヴィンスキーの話。でもわざわざファースト・ネームにしたのだろうに、ファミリー・ネームにしてしまっては身も蓋も無い感じ。

冒頭に「春の祭典」の初演のシーンが出て来る。舞台は1913年、パリ・シャンゼリゼ劇場。音楽史上の伝説となっている大騒動の一夜。実はそのシーンが見たいが為に、この映画を観に行った様なもの。結論から言えば、キチンと描いてくれていると思う。と言うより、あの夜の模様をまともに映像にしたものにお目に掛かったことがない。前にハーバート・ロス監督の映画「ニジンスキー」のことを書いたけれど、あの映画でさえ他の作品に比べても「春の祭典」は断片的過ぎて物足りなかった。

今回の映画では、まず史実と同じシャンゼリゼ劇場を使っている様だ。(さすがにフランス映画!) バレエの振付は、おそらく復元されたニジンスキー版。ハーバート・ロスの「ニジンスキー」がリリースされたのは1980年だけれど、その頃は初演時のニジンスキーの振付はすっかり失われていたのだが、その後研究者の努力で80年代後半にはニジンスキーの振付が復元されたそうだ。今ではペテルスブルクのマリインスキー劇場やパリ・オペラ座でも定番となっているらしい。丁度、去年の暮れにゲルギエフ指揮のマリインスキー劇場の「春の祭典」がNHK/BSで放送されていた。

音楽の方も、冒頭のファゴットのソロから始めていた。正確に言うと、ファゴット(ドイツ式)ではなくバソン(フランス式の楽器)。ドガが「オペラ座のオーケストラ」で見事に描いていた奏者はバソンを吹いている。つい最近では「のだめカンタービレ最終楽章」の中に「ファゴット vs バソン」のエピソードが出て来たのには笑った。ロシアバレエ団のオーケストラについてはどういう素性か触れた記録にはお目に掛かった記憶が無いが、元々ロシアバレエ団(バレエ・リュス)自身がディアギレフがフランスでの興行の為にシーズン毎に編成した団体だったから、オーケストラもフランスで編成されたのだろう。だから「ファゴットよりバソン」というのは自然だ。

次第にざわつく客席。やがて怒鳴り合いになる。描かれている情景は、従来聞いていた騒動で意外性は無いけれど、実際に起こった場所にロケーションして丁寧に復元してくれたのは有難い。結局、10分以上のシーンとなっているのではないか。

その後は、シャネルとストラヴィンスキーが恋に落ちる話。シャネルがロシア・バレエ団のパトロンであったのは良く知られた話だと思うけど、二人が恋仲になったという話しは余り聞かない。創作なのかな?

ストラヴィンスキー役の俳優はどこかで見たことがあったと思ったら、最新の「007シリーズ」の第1作「カジノロワイヤル」でエキセントリックな敵役を演じていたマッツ・ミケルソンだ。クセのある人だが、取敢えずガタイが良すぎるし、端正過ぎるかも。本物のストラヴィンスキーは目のギョロっとした、どちらかと言えば「異形の人」だった様に思う。ピアノの弾きっぷりは堂に入っている。本当に弾ける人かも知れない。

シャネル役のアナ・ムグラリスは、女優の傍らシャネルの専属モデルをやっているというだけあって、雰囲気があってカッコいい。これも本物は、もう少し個性的な人だったらしいが。

でも、まぁクラシックな雰囲気の恋物語にはやはり端正な役者は必要でしょう。(ラブシーンは、う〜ん、クラシックというよりアグレッシブだが) 取敢えず、僕にとっては資料的価値において貴重。映画としても、なかなか雰囲気があって良い映画じゃないかな。

ココ・シャネルの映画は、去年の秋にもシャリー・マクレーン主演の「ココ・シャネル」があったけど、これは見逃している。シャリー・マクレーンは大好きな女優だし、ぜひどこかでみたいもの。

上映していたのは、銀座の山野楽器の裏手にある「シネスイッチ銀座」。昔は「銀座文化」という映画館で、大学生の頃から20代一杯良く観に行った。MGMのミュージカル映画の復活上映とか、「シネマ・パラダイス」もここで観た。今でもなかなか個性的なプログラムを組んでいるらしい。