モーツァルト 歌劇「フィガロの結婚」(Wiener Staatsoper)

「指輪」が二夜続いた後に「フィガロ」は、ひと心地着く。やはりワグネリアンにはなれないか? それにしても「フィガロ」の重唱は楽しい。

何と言っても、スザンナ役のヴァレンティナ・ナフォルニータがいい。ほとんどビブラートのない声に透明感があるし、姿形もはまっている。実は、2014年のザルツブルクの「ドン・ジョバンニ」でこの人のツェルリーナ役を観ているが、あの時もとても良かった。

アルマヴィーヴァ伯爵夫人は中国人ソプラノのGuanqun Yu。悪くはなかったと思うが、スザンナ役のコケティッシュさに上手く対抗軸を張れなかった感じ。いずれにしても、欧米の一流歌劇場で東洋趣味抜きのレパートリーでアジア人がメインキャストを張るのは難しいんだろうなと思う。

実は、2015年のザルツブルクでも「フィガロ」を観ている。その時には2014年の「ドン・ジョバンニ」で今晩のスザンナ役のナフォルニータと共演したレポレッロ役のルカ・ピサローニとドナ・エルヴィラ役のアネット・フリッシュが、アルマヴィーヴァ伯爵夫妻役で出ていて、とても良かった。だからそのふたりと、今回のナフォルニータのスザンナというキャストが、今僕の一番観たい「フィガロ」という気がする。

今晩の席はまたしても、いつに無く上席。下手2階のボックス席の最前列。すぐ下にはオケピットが臨めて楽しい。オケの音がそのまま飛び込んで来るので、歌とのバランスが悪く感じたが、それはまた贅沢な話。じきになれた。

すぐ隣りは日本人の若いカップル。どうやら新婚旅行らしい。それで「フィガロの結婚」観劇とは洒落たものだが、女性の方が「この席って、相当ないい席じゃないの?」と無邪気に男性の方に囁いていた。奥さん、そうです。相当いい席です。

Wolfgang Amadeus Mozart
LE NOZZE DI FIGARO

Wiener Staatsoper

02 May 2017, Tuesday
19:00 - 22:30

Adam Fischer, Conductor
Jean-Louis Martinoty, Director
Hans Schavernoch, Set Design
Sylvie de Segonzac, Costumes
Fabrice Kebour, Lighting

Conte d'Almaviva, Adam Plachetka
Contessa d'Almaviva, Guanqun Yu
Susanna, Valentina Naforniţa
Figaro, Carlos Álvarez
Cherubino, Kate Lindsey

 

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ワーグナー 楽劇「ワルキューレ」(Wiener Staatsoper)

確かに「ラインの黄金」は序夜に過ぎないのかも知れない。「ワルキューレ」は俄然面白い。メインキャストの6人が歌い倒す。我らが藤村実穂子も頑張っていたが、特に印象に残ったのは、フンディング役(バス)のAin Angerと、ブリュンヒルデ役(ソプラノ)のPetra Lang。

Ain Angerはエストニア出身。長身で姿形も声も迫力がある。経歴を見るとシュターツオパーのアンサンブルメンバーだった所為もあるのか、アンコールの拍手も一番受けていた。ウィーンの公演のキャストを見ていると東欧やバルト三国出身の歌手は多い。

Petra Langは、キャリアの初期はリリック・ソプラノだったが途中でドラマティック・ソプラノに転向し、今やワーグナー歌いとしてバイロイトの常連だという。後から経歴を見て驚いた。とても54歳とは思えない。

終幕のブリュンヒルデが炎に包まれてゆくシーンは、プロジェクション・マッピングの技術が効果を上げている。

2回の休憩を挟んだとはいえ、これだけ濃密な迫力ある舞台を4時間余り観るのは、さすがに疲れた。

Richard Wagner
DIE WALKÜRE

Wiener Staatsoper
01 May 2017 Monday
17:00 - 21:45

Peter Schneider, Conductor
Sven-Eric Bechtolf, Director
Rolf Glittenberg, Set DEsign
Marianne Glittenberg, Costumes

Siegmund, Robert Dean Smith
Hunding, Ain Anger
Wotan, Tomasz Konieczny
Sieglinde, Camilla Nylund
Brünnhilde, Petra Lang
Fricka, Mihoko Fujimura

 

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ワーグナー 楽劇「ラインの黄金」(Wiener Staatsoper)

今日、明日は「リング」の前半「ラインの黄金」と「ワルキューレ」を二夜続けて上演するという魅力的なスケジュール。チケットがなかなか取れずにやきもきしたが、エージェントに頑張って貰って何とか取れたのは、平土間5列めといういささか身分不相応な席。音響的にも、ワーグナーであればもう少しオケピットから離れて、音が練れたところの方が良いのに、とこれは贅沢な話。

指揮のペーター・シュナイダーは今回が初めてだが、演出のスベン-エリック・ベクトルフという人は、2014年の夏に初めてザルツブルグに行った時に「ドン・ジョバンニ」を観て面白かった。ストレート・プレイから出た人らしく、キャストも芝居として違和感無く楽しめた記憶がある。

今回もそうだった、と言いたいところだけれど、ひとりだけフレイア役の歌手(Caroline Wenbornというオーストラリア人のソプラノ)が見た目、渡辺直美にそっくりな雰囲気なので気になって仕方がなかった。フレイアという役はフリッカ(ヴォータンの妻)の妹で美の女神、その美しさゆえに巨人族が執着してヴォータンと揉める、という役なので余計に「えっ?」という感じ。まぁ、オペラではよくある話だけれど、そういうイメージが出来ると頭から離れなくて困った。後で調べてみたら、バイロイトでも同じ役をやるというから、相当な実力者なのだろうけれど。げに恐ろしきは先入観。

キャストの中で、ひときわ異彩を放っていたのは、ローゲ役のNorbert Ernst。正直なところワーグナーは余り真面目に聞いたことがなかったので、こういうキャラクター俳優の様な役回りのテノールは新鮮。この人もバイロイトでもそれと知られた有名な歌手らしい。

さて、今回は藤村実穂子さんを初めて生で聞いた。フリッカ役で今晩と明日の「ワルキューレ」に連続して出る。「ラインの黄金」と「ワルキューレ」に共通する主要キャストであるヴォータンとフリッカだけれど、今回ヴォータン役は変わるので、唯一同じキャストという大事な役。オレ様のヴォータンに対して分別盛りの妻役がはまっている。欧州の第一線で本当に活躍している唯一の日本人歌手といっていい人だし、とりわけワーグナーの様な重厚な作品で認められているのは素晴らしい。

Richard Wagner
DAS RHEINGOLD

Wiener Staatsoper
30 April 2017, Sunday
19:00 - 21:30

Peter Schneider, Conductor
Sven-Eric Bechtolf, Director
Rolf Glittenberg, Set DEsign
Marianne Glittenberg, Costumes

Wotan, Egils Silins
Loge, Norbert Ernst
Fricka, Mihoko Fujimura
Erda, Okka von der Damerau
Alberich, Jochen Schmeckenbecher
Mime, Wolfgang Ablinger-Sperrhacke

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ウィーン・フィル定期演奏会(Musikverein)

さて、今日は夜のオペラの前にウィーンフィルの定期演奏会。

いつもながら、ムジークフェラインの日曜日の朝のコンサートは特別だ。窓があるホールなので、明るくて独特の雰囲気がある。

今回の席はなかなか取れなくてハラハラしたが、上手2階のバルコニー席の一番舞台から遠いところ。舞台は下手側が3分の1も見えないけれど、音は問題無い。むしろ壁際の席なので、椅子を舞台側に向けて聞き易く座れる。チケット・エージェントの方が「バルコニー席(3列ある)は、最前列が取れないなら2列目より壁際の3列目がお勧めですよ」とアドバイスしてくれた意味が判った。

ウィーンフィルでモーツァルトのシンフォニーを生で聞くのは2回目だけれど、ムジークフェラインでは今回が初めて。

マエストロ・ブロムシュテットは今年90歳を迎えるらしいが、相変わらず背筋が伸びて姿勢も演奏も至って端正だ。ウィーンフィルにデビューしたのは80歳を過ぎてから、アーノンクールの代演だというから驚きだ。それ以来度々ウィーンフィルに招かれている。

90年代の前半、私は仕事でサンフランシスコの郊外に暮らしていたが、その時期はブロムシュテットがサンフランシスコ交響楽団の音楽監督をしていた時期と重なる。(もうかれこれ四半世紀も昔しの話だ!)その頃も何度かブロムシュテットの指揮を観ている。今日はそれ以来目にしたマエストロの雄姿だ。

モーツァルトも良かったが、やはりブルックナーが素晴らしかった。ブロムシュテットのは「生真面目な熱さ」というのは、ブルックナーにとても合っている様に思う。

それにしても、この指揮者なら100歳でも現役って、あり得るんじゃないかしら。

Sonntag-Matinée der Wiener Philharmoniker Nr. 8
30 April 2017
11:00 Großer Saal, Musikverein
Wiener Philharmoniker
Herbert Blomstedt

Programme

Wolfgang Amadeus Mozart
Symphonie Es-Dur, KV 543

Anton Bruckner
Symphonie Nr. 4 Es-Dur, WAB 104, "Romantische"

 

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ウィーン、日曜日の朝。

日曜日の朝、ウィーンは快晴。気温は8°だが体感温度は12°あるというから、正に「春うららか」。1年振りのウィーン。思えば、去年のゴールデンウィークのウィーンは小雨混じりで、うすら寒かった。

カフェでゆっくりコーヒーを頂いたら、11時から楽友協会でウィーンフィルの演奏会。プログラムは、モーツァルトの39番とブルックナーの4番のシンフォニー。夜は、国立歌劇場で「ラインの黄金」。久し振りのウィーンフィル・ダブルヘッダーが楽しみです。

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トーンキュンストラー管弦楽団演奏会(Musikverein)

ウィーンに到着してから3日目。夕方になってやっと少し青空が見えて来た。夕陽に映えるムジークフェラインが美しい。

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ムジークフェラインでの演奏会は、ほぼ2年振り。今回、初めてトーンキュンストラー管弦楽団を聞いた。指揮者は音楽監督の佐渡裕。日本への「音楽監督就任記念」ツアーを前にした演奏会になる。

プログラムは、ハイドン(交響曲第8番「夕」)、メンデルスゾーン(ヴァイオリン協奏曲)とリヒャルト・シュトラウス(「英雄の生涯」)。どういう脈絡の構成かは知らないが、結構面白かった。

このうち、日本に持って行くのは「英雄の生涯」だけ。前プロは同じハイドンの交響曲だが、三部作(「朝」「昼」「夕」)の最初になる第6番の「朝」。中プロ(協奏曲)は、メンデルスゾーンに代えて、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲かピアノ協奏曲が入る。メインは「英雄の生涯」か、ブラームスの交響曲第4番というプログラム。

ハイドンの交響曲は100曲以上もあるけれど、勿論知っている曲は圧倒的に少ない。特にひと桁台の番号の作品などは全く聞いたことがなかったし、どんな若書きの作品だろうと想像したが、なかなか面白い。ハイドンがエステルハージ候のオーケストラの副楽長になって、そのオーケストラの名手たちをフィーチャーしたとかで、各楽器のソロが多い。「バロックの合奏協奏曲を模して」という解説もみたが、むしろハイドンの弦楽四重奏曲にも共通する清澄な響きがして魅力的。

メンデルスゾーンのソロを弾いたクリスチャン・テツラフという人は名前こそ知っていたが、今回初めて聞いた。最近この曲をまともに聞いていなかった所為もあると思うが、良く耳にする思い入れたっぷりに弾かれがちな冒頭の第1主題を、弾き飛ばすくらいに素っ気なく弾くので肩透かしを食らった。後からCDで出ている別の演奏を聞いてみたら同じ様な弾き方なので、このソリストの好みなのだろう。もっとも冒頭の主題以外は、むしろ丁寧な弾き方をする人で好ましい。

さて「英雄の生涯」。正直、肝心の冒頭の主題の掴みがちょっともの足りない様な。もっとけれん味を利かせてくれてもいいのに、と思わないでもなかったけれど。ヴァイオリンの独奏はコンサートマスターのオランダ人女性。ハイドンの交響曲でも独奏があったがしっかりした気持ちの良い音のする人だ。

このオーケストラについては、佐渡さんが音楽監督になったことで日本でも有名になったが、「100年以上の歴史のある名門オケ」という紹介がある一方で、「ウィーンでは所詮、ウィーンフィル、ウィーン響、放送響の次の四番手だ」というネット雀の口さがない評判も目にした。まぁ、そういう評判はあてにならないし、どうでも良い。私自身は概して好感を持てた。

ひとつだけ確かに思うのは、指揮者にとってはムジークフェラインを(準)本拠地にして、音作りが出来て演奏会が出来るというのは魅力的だろうな、ということ。

今回の席は、上手2階のバルコニー席の中ほど。1列目なので、視界も問題無いと思ったら、並びの左側(つまり舞台に対して、私の席より後方)の高齢のご婦人が、私が少しでも身を乗り出そうものなら「見えない」とわざわざ手を出して制してくるのには参った。お陰でステージの3分の2くらい(指揮者も含めて)はまともに見えなかった。私の右側の人まで注意していたから、筋金入りのうるさ方だ。

Tuesday, 3. May 2016 19:00 Musikverein

Tonkünstler-Orchester Niederösterreich
Yutaka Sado, Dirigent
Christian Tetzlaff, Violine
Lieke Te Winkel, Solovioline

Program:

Joseph Haydn
Symphonie G-Dur, Hob. I:8, „Le Soir”

Felix Mendelssohn Bartholdy
Konzert für Violine und Orchester e-Moll, op. 64

Richard Strauss
Ein Heldenleben. Tondichtung für großes Orchester, op. 40

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歌劇「カプリッチョ」 (Theater an der Wien)

いつものルーティンで、夕方オペラの前に昼寝を試みるも少しまどろむだけで、ほとんどまともには眠れなかった。

今晩の会場は、Theater an der Wien。ここも7年前のGW以来。あの時はモーツァルトの「ミトリダーテ」だった。今回はR.シュトラウスの「カプリッチョ」。ところが時差調整に失敗したボヤけた脳みそには、冒頭の弦楽六重奏は格好の睡眠誘導となってしまった。休憩無しの公演が却って災いして、寄せては返す睡魔の波に勝てず最後まで回復出来ないままに終わった。本当に勿体無い事をした。

それでも、この劇場らしく元々の時代設定からは離れて、オーソドックスではない、一筋縄ではいかないグロテスクな演出だった事は夢の中の出来事の様に覚えている。

いずれにしても、この演目を「観た」とはとても言えないので、これ以上グダグダ書くのは止めておこう。

Monday, 2 May 2016    19:00   Theater an der Wien
 
CAPRICCIO

Play for music in one act (1942)
Music by Richard Strauss
Libretto by Stefan Zweig, Joseph Gregor, Clemens Krauss, 
Richard Strauss and Hans Swarowsky
Production of Theater an der Wien
 
Orchestra               Wiener Symphoniker
Conductor              Bertrand de Billy
Director                  Tatjana Gürbaca
Stage Design         Henrik Ahr
Costume Design    Barbara Drosihn
Light Design          Stefan Bolliger
Dramaturgy           Bettina Auer
 
Countess                Maria Bengtsson
Count                      Andrè Schuen
Flamand                 Daniel Behle
Olivier                     Daniel Schmutzhard
La Roche                Lars Woldt
Actress Clairon      Tanja Ariane Baumgartner
Monsieur Taupe     Erik Årman
An Italian singer     Elena Galitskaya
An Italian singer     Jörg Schneider
The steward           Christoph Seidl
Servant                  Sebastian Acosta
Servant Thomas    David Birch
Servant                  Stefan Dolinar
Servant                  Richard Helm
Servant                  Florian Köfler
Servant Marcell     Attila Krokovay
Servant                 Max von Lütgendorff
Servant                 Angelo Pollak
Dancer                  Agnes Guk

 

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