2022 春:ティーレマン/ウィーン・フィル演奏会(Musikverein)

今夜は楽しみにしていたティーレマン/ウィーン・フィルのブルックナー。

同じプログラムで前の土日にマチネがあり(こちらはウィーン・フィル主催の定期演奏会)、今夜は同じプログラムのソワレ(楽友協会主催)。ウィーンフィルの演奏会はエージェントを使ったりしてなかなか取れなかったが、こちらのソワレはMusikvereinのサイトで普通に買えるので助かる。とはいえ、ここのマチネは窓から外の明るさが入り独特の雰囲気で良いのだが。

調べてみたら、私にとってウィーン・フィルのブルックナーはこれで4度目。2014年1月のシャイー同年8月のムーティ(ザルツブルク)2017年4月(つまり前回のウィーン旅行)のブロムシュテット。このうちブロムシュテットの時の第4番以外は今日と同じ第6番というのは面白い。ブルックナーの交響曲の中でもそんなに人気のある曲とは思わないのだが。

ティーレマンを生で観るのは今回が初めて。意外に思ったのは、それほど大きな人ではないということ。決して小柄な人ということではないが、なぜか私はドイツ人の大男という印象を持っていた。実際のところ佐渡裕の方が大きいのではないかしら。

ムジークフェラインの中で、ブルックナーの響きに身を委ねるのは本当に心地良い。大仰なところは全く無く堅実な指揮振り。それでいて大きくてふくよかな音が自在に引き出される。ティーレマンは手兵のドレスデン・シュターツカペレとブルックナーの交響曲全集を出しているけれど、ウィーン・フィルとの全集も録音が進行中。2月のニュースでは、収録も6番と9番を残すのみとなっていたので、6番は今回(ライブかどうかは知らないが)録られているのかも知れない。

圧巻の演奏だったと思うが、すごかったのはカーテンコール。オケと一緒に3回(いや4回?)のカーテンコールに応えていたティーレマンだったが、オケのメンバーが舞台からはけたあとも拍手が鳴り止まず、結局ひとりだけで8回のコールに応えていた。勿論、演奏が良かったし、同じプログラムの最終日(3日目)であったこともあったのだろうが、規制が全面的に解除されてようやく迎えた街のお気に入りの指揮者の快演に、観客の喜びもひとしおだったのかも知れない。

Musikverein
Monday 2 May 2022, 19:00 Grosser Saal

Wiener Philharmoniker
Christian Thielemann, Dirigent
Camilla Nylund, SopranRichard

Strauss:
Malven. Lied für Sopran und Klavier, AV 304; orchestriert von Wolfgang Rihm
Vier letzte Lieder für Sopran und Orchester, WoO, AV 150

Anton Bruckner
Symphonie Nr. 6 A-Dur

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2022 春:ワーグナー「トリスタンとイゾルデ」(Wiener Staatsoper)

「トリスタンとイゾルデ」を全編、しかも生で見聞きするのは初めてだ。大体第1幕への前奏曲だけを聞いて、知っているつもりなのが怖い。

主役の2人はともに地元オーストリア生まれ。とにかく質量ともに膨大なそれぞれの役を歌い切ったという感じ。私にはそれだけでも賞賛に値する。(とりわけ第2幕!)

イゾルデ役のMartina Serafinは「ばらの騎士」の元帥夫人も当り役で、昨年のオンライン公演(シュターツオパー)でも演じていたし、中止になってしまった来日公演でもその役を歌う筈だった。機会があれば、「ばらの騎士」もぜひ生で観てみたい。

音楽監督のフィリップ・ジョルダンは今回初めて観た。見た目通りの端正な指揮振りと見たが、ワーグナーも変に重くなくて良い。

問題は今シーズン初お目見えの「新演出」なるもの。多くは語りたくないのだが、歌や演奏の邪魔をして、必要以上に何かを表現しようとすることに何か意味があるのだろうか? 観る者に理解出来ない表現にも何か寓意が込められているのかも知れないけれど、So What!!と言いたい。歌手とオーケストラの熱演に感動するがゆえに、ひどく後味が悪い。これまでいくつかのオペラを観て来て、自分の趣味がそこそこ保守的であることも分かってきたが、それにしても、この演出が良い意味で「革新的」などとはとても思えない。

さて今回、シュターツオパーで新しくなっていたのは、客席に据え付けられたディスプレイ。従来は、2行表示するのが精々だったものが、新しいものはカーナビのディスプレイくらいある。言語はドイツ語を含め8カ国語選べて、東洋系では日本語と中国語が選べる。実は今回、中で買ったプログラムには、前にはあった日本語のあらすじページが無くなっていた。(英語はまだある)でも今回のこのプロンプターのお陰で随分と筋を追い易かった。日本語も変な引っ掛かりが無く、こなれている感じ。

それで改めて実感したのだが、ワーグナーのテキストはしつこい(特にこの作品が強烈なのかも知れないが)。ケルト伝説が元になっているということだけれど、同じ文脈の愛や恨みの言葉が延々と繰り返されいささか食傷気味になる。正に音楽無しには聞いていられない。(そもそもその音楽こそが革新なのだけれど)それでもセリフが判らないがゆえに、いつもは途中で決まってダレ場(要は眠くなること)があるが、今回それが無く4時間近くの長丁場を乗り切れたのはプロンプターのお陰かも知れない。

Wiener Staatsoper
Sunday 1 May 2022, 17.00 - 22.00

Richard Wagner
TRISTAN UND ISOLDE

Musical Direction: Philippe Jordan
Production: Calixto Bieito
Stage Design: Rebecca Ringst
Costume Design: Ingo Krügler
Lighting Design: Michael Bauer

Tristan: Andreas Schager
König Marke: René Pape
Isolde: Martina Serafin
Kurwenal: Iain Paterson
Brangäne: Ekaterina Gubanova
Melot: Clemens Unterreiner
Hirt: Daniel Jenz
Steuermann: Martin Häßler
Stimme des Seemanns: Josh Lovell

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◇新しいディスプレイ

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2022 春:ウィーン・ジュネスオーケストラ演奏会(Musikverein)

今回のウィーン旅行の幕開けは、ウィーン・ジュネスオーケストラの演奏会。

こちらでチケットをピックアップした時に「あれ?」と思ったのだが、席が平土間の前から4列目の一番右という場所。何と購入控えに席番号が無いのでネゴを諦めたけれど、自分から好んでこんな席を取るはずは無いし、釈然としないまま席に着く。結局オケメンバーも見渡せず音もバランス悪くて消化不良。

それでも、ジュネスらしく弾いている姿は若々しくて気持ちが良い。おそらく音楽専攻の学生が多いのか、演奏の技術は高いと思う。プログラムの中では、一番演奏時間が長く演奏効果の高かったのが前半の2曲目に演られたWojciech Chałupkaというポーランド人作曲家のサクソフォーンとアコーディオンという珍しいデュオをソリストに迎えた曲。この日が初演だという。おそらくこのデュオに当て書きされたものか。作曲家とサクソフォーンはポーランド人、アコーディオンはセルビア人で、ウィーンの演奏会やオペラではいつも中東欧のタレントの豊富さに気付かされる。

それにしても、オケメンバーは見える限り女性が多かった。バイオリンは第1と第2を合わせて男性は1人。全編二管編成だったけれど、木管はファゴットの一番以外は全て女性といった具合。LGBTQの叫ばれる世の中なので今更ですけれど、この傾向は日本のブラスバンドや学生オケだけではないのですね。

これもジュネスらしく、全部の演奏が終わったあともメンバーたちは舞台から去らず、集合写真を撮ったり、観に来ていた家族や友人たちと言葉を交わしたり交歓風景が続いていた。

Sat 30. April 2022
19:30 Grosser Saal, Musikverein

Wiener Jeunesse Orchester
Herbert Böck, Dirigent
Duo Aliadad; Michał Knot (Saxophone), Bogdan Laketic (Akkordeon)
Franz Schubert: Ouvertüre zum Zauberspiel mit Musik „Die Zauberharfe”, D 644

Wojciech Chałupka: The Ancient Night (Uraufführung)

Franz Schubert: Symphonie Nr. 7 h-Moll, D 759, „Unvollendete“

Igor Strawinsky: Le Baiser de la Fée. Divertimento für Orchester

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◇7時なのにまだこんなに明るい

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◇こんな席買ったつもりはないのに…

2022 春:国立劇場連盟ボックスオフィスとアルカディア

ウィーンに着いた翌朝は、ネットで購入したオペラや演奏会のチケットをピックアップするのが私のルーティン。今回はシュターツオパーの演目がふたつ、フォルクスオパーがひとつ、ムジークフェラインの演目がふたつ(ウィーン・ジュネスオーケストラとウィーン・フィル)の5公演。ここで早速変化に遭遇。

シュターツオパーとフォルクスオパーは、いつも国立劇場連盟のボックスオフィスでピックアップするのだが、その場所が変わっていた。以前はシュターツオパーとオペルンガッセを挟んで向かい側にあったのが、今回来てみたら、シュターツオパー内の向かって右手のコーナー、以前はカフェのあった場所に移っていた。

そちらの方は近くに移っただけなので何ということはないだが、残念だったのは、シュターツオパーのショップとして長らく営業していた「アルカディア」が無くなっていたことです。あとでネットで調べたら、2020年の大晦日に店を閉めたとのこと。この店には、ウィーンに行くたびに立ち寄り、CDこそ買った記憶はないが、ちょっとした小物や昔の公演のポスターなど物色したものだった。ちょっと寂しくなりましたね。

[追記]カフェはボックスオフィスの奥の方と屋外で小さく営業を続くけていた。正直、余り落ち着ける感じではなかったけれど。

2022 春:5年振りのウィーン

ウィーンに来ている。前回2017年に来た時もGWだったので、コロナ禍を挟んで5年振り。新型コロナもまだ静まっていないし、何よりもウクライナの戦争はまだ収まりを見せていないけれど…

言い訳をすれば、航空券を手配したのは新型コロナが一度収まりを見せた去年の6月。結局その後に2度の大きな山が押し寄せて来て、年が明けて2月の上旬に2度目の山がピークアウトした様に見えたので、遅れていたオペラや演奏会のチケット取りをしたと思ったら、ウクライナへの侵攻が始まり、一時はほとんど諦め掛けた。そのうちぐずぐずしていたら目前にGWが迫り、キャンセルする踏ん切りも決行する覚悟もあやふやなままに出て来たというところ。

出発は4月29日。羽田からロンドン経由の乗り継ぎで、朝9時発の便だったので6時頃家を出た。ロンドン行きはロシアの上を飛ばない北極周りで2時間くらい余計に掛かり約15時間のフライト。ロンドンでの乗り継ぎ時間も4時間くらいあったので、ウィーンのホテルに着いた頃には現地時間の夜中12時を回っていた。結局家を出てから25時間の長旅。公私ともに2年以上ぶりの海外旅行としてはなかなかにタフなものだった。疲れ果ててよく眠れるかと思いきや、妙に眠りが浅いのは歳を取ったせいか。

新型コロナについては、オーストリア入国には2回または3回のワクチン接種証明か陰性証明が必要ということだったけれど、結局羽田のチェックインの時にワクチン証明(スマホアプリ)を見せただけで、ロンドンでもウィーンでも何も見せる必要はなかった。あとは、帰りのPCR検査で引っ掛からなければ良いのだけれど…

明けて30日は、晴れて気持ちの良い春の日。日本ほどでは無いけれど、気温も20度まで上がり、観光客も多い。以前と違うのは、東洋系の人間は数えるほどしかいないこと。

ここウィーンとウクライナの首都キーウは1,300キロくらいしか離れていない。日本で言えば、東京と旭川くらいの距離。近いと言えばかなり近い。街の中でウクライナ侵攻のことを思い出させるのは、シュテファン大聖堂の塔にSTOP WARと書かれたウクライナの国旗が架けられているくらい。それでも「こんな時期にヨーロッパに旅行かよ」と自分で自分に突っ込む声は時々頭の中に聞こえてくるが…

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ショスタコーヴィチ 歌劇「ムツェンスク郡のマクベス夫人 」(Wiener Staatsoper)

さて、今晩は今回の旅行の最後の公演。ショスタコーヴィチの「ムツェンスク郡のマクベス夫人 」は初めて観る。

スキャンダラスといえば、これほどスキャンダラスな作品もなかなかないだろう。「サロメ」などよりも遥かに。テーマは陰鬱でグロテスクだ。また見たいか?と尋ねられたら微妙だが、とにかく目と耳は惹きつけられて飽きることはなかった。こういう作品がスターリン施政下のソ連(1936年)で公開されたというのも驚きだ。(案の上、公開後厳しい批判に晒されたようだけど。)

主要キャストは、地方の資産家に嫁いだが鬱々として生活に倦んだ人妻、強面の舅(実は嫁に邪(よこしま)な恋慕を抱いている)、そして不倫相手(という生易しい感じではないが)の女たらしで流れ者の労働者。

人妻役のソプラノ(Eva-Maria Westbroek)はオランダ出身の歌手。この役が当り役らしく堂に入ったものだ。後で調べたら、数少ないDVD/BDとしてマリス・ヤンソンス指揮/コンセルトヘボウの演奏でオランダ国立歌劇場公演のものが発売されている。

舅役のバスは、スキンヘッドのいかつい面構え。歌手とは思えない悪役顔で迫力がある。不倫相手役のテノールは名前からしてロシア人かと思ったら、そもそもの出自はともかく本人はモンタナ州出身のアメリカ人だという。ということで、主要キャストにロシア人はいない。

オーケストラは、木管三管編成でヴァイオリンは12本づつ、ヴィオラが10本、チェロ7本、コントラバスが8本並ぶかなり大きな編成。これに大掛かりなバンダ(金管)が舞台に上がる。問題のスキャンダラスなシーン(要はセックスシーンなのだが)はこの編成全部でけたたましく強奏する。あからさま、といえば余りにあからさまな音楽だ。

それにしても、ここのオケピットにも女性奏者が増えた。前夜の「フィガロ」でも9人を数えたが、今日は14人も居た。ヴァイオリンが7人、ヴィオラが2人、チェロが1人、コントラバスが1人、フルートが1人、オーボエが1人、ファゴットが1人。そのうちセカンド・ヴァイオリンにトップサイド、ファゴットがトップだった。

今週は18世紀のモーツァルト、19世紀のワーグナー、20世紀のショスタコーヴィチのオペラを3〜4日の間に聞いてしまった訳だ。やはり、チョッと疲れましたね。

Dmitri Schostakowitsch
LADY MACBETH VON MZENSK

Wiener Staatsoper
03 May 2017, Wednesday
19:00 - 22:15

Ingo Metzmacher, Conductor
Matthias Hartmann, Director
Volker Hintermeier, Set Design
Su Bühler, Costumes
Teresa Rotemberg, Choreography

Boris Ismailow, Wolfgang Bankl
Katerina Ismailowa, Eva-Maria Westbroek
Sergej, Brandon Jovanovich

 

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